漫画を描きたい。しかし描けなかった。
もう人生は漫画を描くルートから外れてしまった。
そういう「いまさら漫画」をやりたい人のために
「いまさら漫画」の「心技体」を書いていこうと思います。
自分の備忘録も兼ねて、自己と対話しながら書いているので、
自分を戒めるために語調が荒くなることがあります。
自意識の痛さはご了承ください。
1、「いまさら漫画」の心得編
1-1、絵のクオリティに囚われるのはやめろ。
絵を描くのが初めての人。漫画を描くのが初めての人。
二つのパターンがあり得ると思います。
そのどちらの場合においても、言えることがこれです。
「絵のクオリティに囚われると漫画にならない。」
この提言は言葉がシンプル過ぎるため、反論、反発が考えられると思います。例えば、
ークオリティが高くないと読んでもらえないじゃないか。
ー向上心をもって臨まないでどうするの?
ーある程度は頑張らないと恥ずかしくて出せない…
わかります。
でも、私の考えとしては、
ー最初から読んでもらえると思うな。
ーまずはやれ。
ー恥ずかしくても出せ。
です。
何故このようなことを強く言っておく必要があるのか?
理由は、我々の目があまりにも肥えているからです。
我々は基本的に商業的な作品を見ています。
(近頃はSNSでアマチュアの作品を見ることもありますが、それはいったん置きます)
絵がとても上手い漫画家、そうでもない漫画家、下手だと思う漫画家…
何人か想像しましたか?
はっきり言って、今思い浮かべた人に、追いつけることは一生ありません。
特に「絵を描いたことがない」地点から漫画を始める人は複数の理由で絶対に無理です。
第一に絵はすぐには上手くならないからです。これが最も大きい理由。
次点でコマ割りと台詞回しです。
どれもかなりの高等技術です。しかもトライアンドエラーでしか身につかない。。
自らの目に触れる程度に有名な作品は、試行錯誤を通過した方々の作品なので、
追いつくのは無理です。というか、その希望は捨てておいたほうがいいです。
ちなみにこの手の話はまとまった本が全然ないです。
また、「絵を描いたことがある」という人は
「絵」という難関をクリアしているおかげで少し可能性がありますが、
漫画を描くにあたっての考え方は、イラストとはかなり異なるのでちゃんと考えないと無理です。
少なくとも、人物ひとりの「絵」を描くのに三日以上かける考え方だと時間が足りなくなります。
通常、漫画1ページ内に3~6コマ程度のコマがありますから。
最低でも、絵の「シンプル化」「パターン化」をして速度を上げる必要があります。
一枚絵で発揮できる実力の50%も出せないと思ったほうがいいです。
本気を出すとしても決めゴマだけです。
他人の漫画を買ったときに「表紙詐欺!」って思ったことありませんか?
そういうことです。漫画はクオリティよりも時間が命なんです。
時間がすげーーーーーーかかるんです。
なのでまずクオリティはあきらめましょう。
ただ、この諦めというネガティブから
ポジティブな行動に変換していきます。
「じゃあ自分の出来る範囲で、出来るだけ頑張るか…」と。
端的に言えば、もうぜんぶ手癖で描け!!
「いまさら漫画」の心得その①は
「とにかく完成させろ」です。
いかに見苦しい思いをしても他人と比較するな。
完成させた子はそれだけで一等賞です。
かわりに、未完成は死DEATH。
もう心が折れましたか?
やる人はどうせいつか立ち上がるので折れても大丈夫です。
もしあれなら、島本和彦先生の「熱血漫画家十訓」を調べてみて。やる気出ます。
わたしからは一つだけ、「いまさら漫画」をはじめた一人として慰みを。
漫画という媒体はそもそも極めて読みやすいです。基本的に子供でも読めてしまうくらいに。
ミニマムな設計としても、キャラクターの顔があり、言葉があるだけで漫画になる。
絵が拙くても、言葉の意味が通っていて、かつ共感可能であれば読まれます。
人はそもそも漫画が大好きだから。
安心して始めましょう。一緒に。
1-2、恥をかく癖をつけろ
さきほども言ったことの一つですが、重要なポイントなので詳しく書きます。
作品はSNSでもなんでもいいので、この世に提出するつもりで描いてください。
そして絶対に出してください。
漫画を始めるにあたってつまずくポイントがいくつかあります。
ー出したけどあまり反応がもらえなかった。
ー作ったけど恥ずかしくて出せなかった。
ー納得いかなくて作品を完成させられなかった。
ケース①出したけどあまり反応がもらえなかった。
出した人は良いです。覚悟がキマッています。
反応がもらえるまでやればいいだけです。季節感や流行りを意識したり。
Twitter派の方は他人に共感しやすいようなスタイルの漫画も検討しましょう。
pixiv派は共感よりも性癖を優先してもいいかも。あそこは変態が多いから。
このタイプは続けるだけでいいです。素敵です。
ケース②作ったけど恥ずかしくて出せなかった。
冷静になり過ぎです。「いまさら漫画」を描き始めた我々は
クオリティを気にしてはいけません。完成したら即提出が鉄則です。
しかしそれが無理なら、優しい身内に見せてみましょう。
読んでもらえること自体もうれしいことですが、
人から感想を一言でももらえることの喜びは何にも代えがたいです。
(辛口っぽい人はやめてください。大抵の人間は漫画を描く苦しみを知らず、また厳しさ=優しさと勘違いしています。)
恥ずかしくて仕方ないかもしれないけど、
恥を感じるならそれはあなたが頑張って作品を作った証拠です。
適当に描いた漫画には恥は生まれません。
「なんでこんなくだらないものを一生懸命生み出してしまったんだ」という恥の感覚は
むしろ誇りに思うべきです。あなたが「本気」だった証拠ですから。
あなたは「漫画を描かない」人生からの方向転換、その第一歩を踏みしめました。
また、可能であれば、思うような結果が得られなかった
悲しい作品でも自分だけは愛してあげてください。
僕にもそういう作品があります。
ケース③納得いかなくて作品を完成させられなかった。
一番問題なのはこれです。完成する前から恥をかく未来が見えています。
見聞色の覇気を鍛えすぎです。未来を見るのはやめろ。
自分のことだけを見つめて、自分の上昇値だけを見てとにかくかけ。
そういう場合はまず絵の練習に切り替えろ。
恥をかく訓練のために絵をまず投稿しろ。0いいねの痛覚を麻痺させろ。
どう頑張ってもそこに「本気」がある限り恥はあります。
商業漫画家だって恥ずかしいらしいですよ。いわんやをや、です。
ひいこら言いながら完成させましょう。話はそこからです。
実体験として、わたしも初めて描いた漫画は「恥」の気持ちでいっぱいでした。
2019年夏、漫画を描きたくてニートになりました。
1か月くらいデッサンの練習をして、
2か月と少しかけて24ページの漫画を描きました。
https://www.pixiv.net/artworks/81311549
これは当時の作品です。コミケにもっていきました。
しかし恥ずかしすぎてコミケの当日までほとんど告知できませんでした。
当時の最大限の力を発揮したと自信をもって言えます。
しかし、だからこそ、否定されることが恐ろしくて
人に「見て」と言うことが出来なかった…
ただ、この日に作品を出さなかったら、
いま同人活動はしていないと思います。
それくらいの価値がありました。
「いまさら漫画」の心得その②は「とにかく出せ」です。
出すことを想定するから本気になり、恥をかきながら強くなれます。
みんな同じ道を進んでいると思います。頑張りましょう。
1-3、まっとうな生き方を(すこし)諦める
漫画描きにどのようなイメージを持っていますか?
時間に追われて、締め切りギリギリ。
みたいなイメージ持っていませんか?
それはまず、正しいでしょう。
とりわけ週刊漫画家の生活は常軌を逸しています。
ストーリー漫画では16~22ページを一週間で描きます。
とうぜんですが、普通の人間はこの速度で漫画を描けません。
ギャグマンガは13~15ページで、絵の密度も低めですが、まだ多すぎる。
最近はweb漫画があるので、雑誌の掲載幅を度外視できます。
1話8ページとか、1話を前編後編にわけて11ページずつ、とかもあります。(これはマンガワンです)。
しかし、これも毎週必ず仕上げてくる人ばかりではないです。とにかく異常なのです。
遅くに漫画を描き始めた人はみな感じることかと思いますが、
漫画描きは異常者の集まりです。かなり体力を使う活動です。
これを踏まえたうえで、われわれ漫画素人が想定しなければいけないことがあります。
「いまさら漫画」を始めようとする方のほとんどは
一日中、年がら年中、漫画に割ける時間があるわけじゃないということです。
本業のお仕事があるか、フリーター、あるいは大学生、高校生……
どなたも最低6~8時間は「やるべきこと」があるんじゃないですか?
食事や睡眠時間、その他を削ると……
正味の自由時間って、どう頑張っても4~6時間じゃないですか?
「やるべきこと」が忙しければ、もっと少ないと思います。
通常、その自由時間は1日の疲れを癒すリフレッシュに使うと思います。
ゲームをしたり、本を読んだり、テレビや動画を見たり、
あっという間に時間は過ぎて眠りにつき、また次の日を生きると思います。
その時間は本当に必要です。生活を壊してまで描くのは健全ではなく
また、瞬間的に頑張っても漫画はまったく完成せず、
ペースを乱せば、継続すること自体に難が出ます。
よって、わたしの提案はこうです。
「いまさら漫画」を始めようと考えるのなら、
ゲームの時間、本の時間、テレビ動画の時間、何かを諦めてください。
そして、自由時間のうち何時間かを漫画に使ってみてください。
一日「やるべきこと」を終えて、さらに自分に鞭打って自分の無能と戦ってください。
ペン入れは1ページも進まず、
下書きすら半端、棒人間のネームでギリギリ
みたいな風になると思いますが
それでも自分の人生に漫画のスペースを作ってみましょう。
「いまさら漫画」の心得その③「時間を作れ」です。
やりたいことを諦めろと言いましたが、嫌なことばかりではありません。
キャラクターと向き合って、
その愛すべき存在がどんな顔をして、どんなことを話すのかを想像する。
そしてそれが自分の形になっていく様は癖になります。
その時間はほかの娯楽にも勝る、尊い時間になります。
わたし自身の話をしておきます。
わたしはどうしても漫画を描きたくて、また描ける確信があったので
自分のペースを見出すために最初に職を捨てました(職を捨てるのは極力やめましょう)。
24ページの漫画を描くためにおそらく300時間くらい使っていたと思います。
制作期間は2か月ちょいくらいだったのですが、毎日5時間ほど描いていたと思います。
ニートのくせに少ないじゃん!もっと時間あるだろ!と思うかもしれませんが、
しかしこれでも結構な苦痛を伴いました。
遊んで食って寝てをしてもいいのに
自分の下手な絵を見つめながら延々と描いているのです。
ただ、その時は自分の漫画が褒められることだけを想像し
最悪、自分が読みたい物語が読めることをやりがいとしました。
次の年、60ページほどの漫画を描きました。
3か月くらい使って、休みの日も毎日描きました。
この頃は毎月80~100時間くらいバイトをしていたのですが
作画時間は毎月120時間くらいありました。
毎日3~4時間、休日は8時間描くこともありました。
締め切り直前は寝ずに描きました。クリスマスは消えました。
バイトしながらだとそもそも疲れているので、
定職につきながらもっと難しいんだろう、と思いました。
今年は職業訓練校に通いながら、
47ページの漫画を描こうとしています。
今年こそは就職して、仕事をしながら漫画を描けるように
シミュレーションのつもりでやっています。
来年以降は毎年42ページ描いて、
同人誌を二冊ずつ発行するのが目標なのですが、
漫画は本当に時間がかかってしんどくて
やっぱり死ぬほど楽しいです。
「いまさら漫画」の心技体/心編 おわり
技編につづく。
(啄む亭血液法師)
コメントを残す